弦楽器の世界ではイミテーションが堂々と流通している。
と書くとほとんどの人は訝しがるだろう。
しかも、名の通ったオールド楽器のイミテーションをプロ演奏家が堂々と使っていると書くと不審を通り越して混乱してしまうかも知れない。
コンサート会場に行くと、音楽よりも演奏者が弾いている楽器が本物なのかイミテーションなのかという問題のほうが気になってしまう人も出てくるだろう。
だが安心して欲しい。現時点ではヨーロッパの話である。
買い付け旅行先のヨーロッパのとある町でこういう話を聞いた。
ある有名な演奏家、彼は有名ラベルのオールド楽器を所有していたが楽器のコンデション維持で不安があったので、演奏旅行にはイミテーションも一緒に持っていっていた。
ある会場で、オリジナルの調子が良くないことに気がついた。
いろいろと調整してみたが、どうも今ひとつしっくりこない。
専門家に調整を依頼しようにも旅行先なのでつてもなく、時間もない。
そうこうするうちに開演時間がきてしまったので、やむを得ずイミテーションを使用した。
すると、事情を知らないファンから、さすがは銘器だという賛辞をうけて困惑してしまったとか。
有名ラベル楽器を披露することが演奏会の目的ではなかったし、彼が有名ラベル楽器を所有していることも一部のファンが知っていただけだった。
もちろん彼は聴衆を騙すつもりは全くなく、予備の楽器に交換しただけだったのだが。
ご存知の通り、本物のオールド楽器とりわけ有名ラベルのものは希少価値が高く、当然価格も高い。
(ただし、国内での流通価格が適正なのかどうか、また価格に見合った状態に調整されて販売されているのかどうかは疑問が残るところだ)
従って、欲しい楽器を入手するのが難しいという事情が常についてまわる。
価格の方は超一流の演奏家であれば国家貸与やパトロンの支援でなんとかなるだろうが、そのような機会に恵まれる演奏家はヨーロッパといえどもそれほど多くはない。
それ以前に、欲しい楽器が見つからなければどうしようもない。
一方、本物のオールド楽器を既に所有しているプロ演奏家の場合、別の問題が発生する。
長くなってしまったので、この続きは次回・・・・・・。